第4回 被災地と世界をつなぐプロジェクトEAST LOOP 株式会社福市代表取締役高津玉枝さん



もともとは大阪で売り場づくりやPRなどマーケティングの会社を経営していましたが、1990年代後半ごろから安ければいいというデフレの時代になり、自分の想いとは別の方向に世の中が動いていきました。
その頃、フェアトレードという概念に出会い、すぐにインドに旅立ちました。
そこでイギリスを中心に世界の16の地域に拠点を置き、約3,250のパートナー団体と貧困削減の活動をしている国際NGOオックスファムが作ったティーマットという商品に出会い、関心を持ったことをきっかけに設立にも参加しました。
一方、世の中を変えていくためには、ディジションメイキング(意思決定)出来る人を動かし、商品を流通させることが必要という思いから、2006年に株式会社という形で株式会社福市を立ち上げました。

流通業界の中で扱ってもらえるためには、多くの方に見ていただき、人々の関心の高さを知ってもらうことが大切と思い、スタートと同時に名古屋ロフトでショップを展開しました。 2010年からはフェアトレードに専念するために、マーケティングの会社を解散し、約1ヶ月、ブラジルやニューヨークなどを旅していたら、2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。


以前、フェアトレードの仕事でネパールに行ったときに奥地のタルー族の人から言われた「私たちは貧乏だけど、施しはいらない。自分達で仕事をして生きていきたい。」という言葉や、ベトナムで枯れ葉剤(推測)の影響を受けた女性から「村では厄介者だったけど、ここに来てミシンをかけて現金の収入ができて今では村に送ってるの。今ではみんなに感謝されているのよ。」という言葉を思い出しました。
被災地の人たちにとっても、生き生きと仕事をしていて働くということが、元気になれる、また、近しい人を亡くして究極の悲しみの中で、他に夢中になれることがあることで精神的に救われると思ったのです。
私は、もともと東北にはほとんど縁がなかったのですが、支援物資を送ったときに知り合った岩手県遠野市のNPO法人「遠野山・里暮らしネットワーク」との縁で被災地の方々と繋がることができ、4月に初めて現地を訪問しました。
最初は現地の人たちも生きていくことで精一杯ですので、このプロジェクトは現地でも理解してもらえませんでした。しかし、着々と先を見据えてプロジェクトを進めていきました。


プロジェクトの目的は、
・小さな仕事を通じて被災した人々の尊厳を保つ
・仕事を通じて精神的なサポートにつながる
・一般の人たちが商品を通じてサポートする機会を作り震災のことを忘れさせないことです。
代表的な商品はハートブローチです。
シンプルなハートを2つ重ねたニット製のブローチになります。価格は800円で、商品本体価格の50%にあたる400円が生産者に直接届けられます。

練習すれば誰にも出来る編み物という手仕事を作ってみたかったのです。
仕事に編み物を選んだのは、個人で完結し一つの作品を作り上げていくというプロセスが、自分たちの中で精神的な満足感に繋がりハッピーになっていくと考えたからです。
また、小さな糸と編み針があれば、どんな場所でも作ることができることも大事です。
手を動かす仕事は、癒しの効果があると同時に、売り物なので真剣に編まないといけないという気持ちも働くようです。
精神的な苦痛から心を閉ざしてしまった被災者がいたのですが、昼間はなんとか人と話すことができるようになっても、夜になって一人になると考えるのはあの日のことだったそうです。そんなときにこのプロジェクトを知り、これが商品になると思うと仕事に熱中し、震災のこと以外を考える時間がだんだん増えていき、気持ちを健全に保つことができたと聞きます。


またチャリティ商品であっても値段相応の価値を感じられるデザインについてこだわりました。
ニットデザイナーの岩切エミさんが作ったアクセサリーがとても素敵で、大阪の阪急百貨店でイベントをしているのを知り、初対面なのに、突撃で会いにいってデザインをお願いしました。その時、発売日は既に決まっていて、とてもタイトなスケジュールだったのですが、デザインを作ってくれました。編みやすさとかわいさの両面を持ったデザインになったと思います。
EAST LOOPのロゴはグラフィックデザイナーの佐藤直樹さんです。繋ぐというイメージをデザインしてもらいました。商品には佐藤さんにデザインしてもらった台紙には、生産者の名前と地域が手書きでプロットしてあります。これを受け取った人は、生産者の気持ちに心を寄せることが出来るはずです。


遠野市にある手芸店はこのプロジェクトに賛同していただいて、自分が教えることで役に立つなら手伝いたいと、現地で編み物の講習会を行っていただきました。
本当に色んな人の協力の上で出来上がったプロジェクトです。
手芸の講習会では、みんな集まってワイワイがやがや楽しそうに作っておられました。帰りがけにある方が、「こんなに笑ったのは数か月ぶり」と言って下さって、この言葉を聞いただけでも、このプロジェクトをやってよかったと心から思いました。
EAST LOOPのデビューは2011年7月20日です。生産者は、50代、60代を中心に子ども連れの若い人などもたくさんいます。皆さん、どんどん上手くなっていって、紹介で生産者がどんどん広がっていきました。登録者は2012年1月現在で120名程度になります。
ハートのブローチの販売実績は約1万個、クリスマス商品とあわせて現地の生産者に600万円以上が送られました。

プロジェクトは1年間を予定しておりますが、復興までにはまだまだ月日がかかりそうなので今後の予定は未定です。フェアトレードの考えから、今後は地元に引き継いで現地で完結するような仕組みを作っていきたいと思います。
このプロジェクトをきっかけに現地で新たな仕事が生まれていくことを期待しています。
※「EAST LOOP ハートブローチ」は、当店でも販売しています。
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高津 玉枝さん 株式会社福市 代表取締役
大手OAメーカー勤務後、雑貨商社に転職。
1991年にマーケティングの会社を起業。売り場作り・PRを専門に行う。
2006年に株式会社福市を設立。
NGO法人オックスファム・ジャパンの設立に寄与 現時事
大阪市人権施策審議委員会 委員
NPO法人フェアトレードジャパン 理事




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